このお話は実話に基づくお話です。
誰かの知人かもしれないし、親戚かもしれない。
こんな事実も日本にあったんだ、という物語です。
主人公の百合ちゃん他、登場人物はもちろん皆さん仮名です。
醜い女の子
百合ちゃんが幼稚園の頃、近所に住んでるお姉さんやお兄さん、同年代の女の子と道路で鬼ごっこや駆けっこなどをして遊んでいました。
すると何かのきっかけで何歳か年上の、その近所のお姉さんが百合ちゃんに言いました。
「百合ちゃんはいいなぁ。みんなから可愛がられてさ」
『いや可愛がられてねーから!今みんなが大事にしてくれてるのは、百合がまだ幼稚園児だからだよ!小っちゃくてまだ可愛いと思われてる、今のうちだけだから!』
……と、百合ちゃんは冷静に自分の中で突っ込みをいれました。
もちろん声に出しては言ってませんよ!
そう言ってくれたお姉さんに気を使って何も言い返しませんでした。
でも、可愛がられてるとも思ってないので『ありがとう』とも言えませんでした。
もっと幼いころの記憶もあります。
2歳か3歳か、まだお家のおまるでトイレトレーニングをしていた頃の事です。
百合ちゃんはトイレをしたくなりました。
『おまる使わなきゃ』
と思ったのですが、なんとなくそのままおもらししてしまいました。
すると慌ててそばにいたお母さんや、おばあちゃんが百合ちゃんを着替えさせたり床をふいたりして綺麗にしてくれました。
おもらしをした百合ちゃんは怒られませんでした。
でもこう思ったのです。
『家族に迷惑をかけるから、きちんとおまるを使わなきゃ!今怒られなかったのは百合がまだ小さいからだ。大きくなったら叱られる!』
トイレトレーニングをするくらいの、幼稚園にも通ってない頃の記憶ですが百合ちゃんははっきり覚えていたのです。
そして小学校に上がってからは、百合ちゃんの恐れていたことが次々に起こり始めます。
もう小さくないから大事にされないのです。
百合ちゃんは幼稚園の頃からピアノ先生のお宅に個人レッスンに通っていました。
小学生になってからは一人でピアノの先生のお宅へ歩いてレッスンにいきました。
あるときレッスンの順番を待っていると、幼稚園児らしい生徒さんがママに連れられて百合ちゃんの次の順番に並びました。
そしてずいぶん待ってやっと百合ちゃんの順番が来た時にピアノの先生に言われました。
「百合ちゃん、次のお子さんと順番代わってくれない?ほら、小さい子って我慢がきかないじゃない?」
『いやいや百合だってまだ小学1年生だから!その子と1歳くらいしか違わないじゃん!何ひいきしようとしてるの?!その子はママと一緒でしょ!百合は1人で寂しく待ってたんだよ!』
と百合ちゃんは心の中で叫びましたが、もちろん声に出しては言いません。
『……この後そろばん塾があるので、ごめんなさい』
と言って、順番は代わりませんでした。
次に待っていたその園児らしき子は、ママと一緒におとなしく待っていてちっとも騒いでないし、我慢が効かないという様子ではありませんでした。
だから『ピアノの先生はなんでそんなずるいことしようとするんだろう。百合の事なんだと思ってるんだ。子供っぽくなくてかわいくないから?!』と悲しくなりました。
小学校に上がった百合ちゃんは、もう小さくてかわいい未就学児ではなくなったのです。
小学生でも可愛い女の子は可愛がられます。
百合ちゃんは、醜い女の子でした。
色黒で、出っ歯。
釣り目で鼻づまり。
可愛げのない、憎たらしい顔つき。
醜い女の子は、かわいくないのです。
そして貧血気味で鼻詰まりのゆりちゃんは顔色も悪く片頭痛持ち。
いつも機嫌が良くありませんでした。
可愛げもありません。
可愛げのない女の子は、可愛がられません。
そしてお家の中で、おばあちゃんから『しつけ』の名を借りた『いじめ』が始まるのです。
そのことに誰も気づきません。
おばあちゃんも、百合ちゃん自身でさえ……。
おばあちゃんは、血のつながった本当のおばあちゃんなのに……。
あまっこ
「あまっこなんだから、皿洗え!!」
「あまっこなんだから、洗濯しろ!」
「洗濯物干しな!」
『あまっこ』とは、女の子に対する差別呼称です。
小学校に上がったとたんに、百合ちゃんは一緒に住んでいるおばあちゃんから憎しみの目を向けられるようになりました。
そして奴隷のように百合ちゃんにだけ、家事を押し付けようとします。
女の子がおうちのお手伝いとして洗濯したり、お皿洗いをするのは虐待じゃありません。
百合ちゃんもきちんと洗濯したり、お皿洗いを手伝いました。
子供がおうちのお手伝いをするのは普通の事だと思ったからです。
でも不満がありました。
一緒に住んでいる年上のお兄ちゃんはちっとも家事をやらされません。
何のお手伝いもさせられません。
お兄ちゃんは、大事なおうちの跡取りだからです。
お兄ちゃんは、男の子なので『あまっこ』という名の、おうちの奴隷ではないのです。